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それから数週間後、こいつは1mmの隙もない化粧をやめて、自然な薄い化粧に変えた。
俺にはよく分らんが、野菜を沢山食べたり、肌の手入れに力を入れたりしたおかげで、肌の色、ツヤも良くなったらしい。
前はやたらと他人の目線を気にしていた洋服も、なんだか風を纏ってふわふわと着心地が良さそうな物を着ている。
俺の思ったとおり、こいつは自然体がいい。
「ニャー(最近、前よりキレイになった?)」
思わず口にしてしまってから、照れ臭くて柱の陰に隠れる俺。
「ん?トラ、どうしたの?お留守番寂しい?」
俺はこいつの兄貴分。そんな恥ずかしいセリフ妹に言えるかっ!
「いけない!忘れるところだった。今日のお昼ここに置いていくね」
人が褒めればすぐこれだ。
俺の昼飯、忘れるな。まぁ、贅沢まぐろ味に免じて許してやろう。
やっぱりあいつはどこか抜けてる。俺がしっかり見ててやらないと危なっかしくていかん。
トントンと、まるでいいことが起きるまじないでもするかのように、
軽快なリズムで靴を履き、振り向きざまに手を振って出ていくあいつが、
春日に照らされて一層眩しく見えた。
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