父とわたし

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
父は何の変哲もないただの父親だった。 普通の家庭に産まれ、今でいう高等学校を卒し、何の気もなく地元の工務店に就職した。そして、昭和1桁生まれ世代では晩婚とされる32歳で結婚。それも相手は一度元夫に棄てられた女───それでも父は言う。 「俺は本当に幸せだ」 結婚した翌年、父は男の双子に恵まれた。父は男の子が欲しかった。それも双子。父の喜びようは家族内で今でも笑い話となるくらい凄いものだったという。 父はこの2人の男の子を本当によく愛した。毎日早く仕事を切り上げて急いで家路につく。自分で風呂を洗って2人を風呂に入れた。晩飯の時は必ず2人のうちどちらかを膝に抱えながら飯を食った。もちろん寝る時も一緒、夜泣きも母と一緒に起きて一生懸命抱っこした。当時はまだ赤ん坊をずっと抱き続けることは『抱き癖がつくから良くない』とされていた。しかし父は周りの声を無視して常に双子を抱いていたという。休みの日は必ず2人と過ごし、2歳になる頃には趣味の野球を教え始めた。小学校や地区の催し物などわたしが参加するものはすべて見に来てくれた。元々家事すらもままならない父だったという。本当に子煩悩だったのだろう。そんな父に育てられた「わたし」はいつも思うことがある。 ─俺は本当に幸せだ─
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!