深夜にて

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深夜にて

カラン。 綺麗に丸く削り取られた氷がグラスに当たる。 午前二時。 灰皿に燻る煙草の(もや)が、 青とピンクのライトを濁す。 店内には年老いて整った髭を(はや)すオーナーと 葡萄酒(ワイン)色の目をした男だけだ。 「バーボンを」 彼は言った。 「まだ残っているじゃないか。モノポリー。」 モノポリーは彼の通り名だ。 彼の名前は独占(どくせん)。 いや、これも偽名だろうか。 彼には名前が多い。 ワイン、テキーラ、モノポリーに独占。 今となっては彼自身も覚えていない名もあるだろう。 「どうせ飲むんだ。変わりはしないさ。」 ため息混じりの少し低い声で、彼は言った。 これから話すのは 彼の過去の話。 少しばかりほろ苦い、 滑らかな口当たりの、 豊潤な香りのする、 葡萄酒のような物語。
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