HERO

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 リビングダイニング脇の洋室に、大きな介護用ベッドがある。ボタンを押すと、枕側が少しずつ上がって寄りかかるのに丁度いい傾斜が出来る。 「今日はデイサービスの日だから、9時頃にお迎えが来るわ。この辺りに荷物は用意してあるから」  母さんの上ずった声が聞こえる。  俺は出された朝食を掻き込みながら、見て見ないフリをする。  動けなくなった父さんの代わりに、母さんがパートに出て家計を支える。障害者年金と蓄えだけじゃ、俺の高校の学費がままならないらしい。 「大丈夫。いつも通り、楽しんでくるよ」  父さんの力ない声。  本当に正義のヒーロー《ラティオ》だったのかどうか、今ではそれすら疑わしい。  ベッドの上で朝食を食べる父さんと、ダイニングテーブルで朝食を食べる俺の間に会話はない。  腰から下が動かなくなり、左手にも麻痺が残る父さんは、排泄の処理も、着替え、入浴も一人じゃ無理だ。デイサービスに行かない日はヘルパーさんが来て介助してくれるが、介護回数が増えればそれだけ費用もかさむ。俺が手伝っても限界がある。働いても働いても、母さんの稼ぎだけじゃ間に合わない。
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