HERO

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 人間の欲望は果てしなく、誰かを傷つけることに対して何の躊躇もなくなった連中は、次から次に悪いことをしでかす。例えば銀行強盗だったり、強姦だったり。テロ、爆破事件、サイバー攻撃。ヒーローなんて存在しなかった時代、専門の部署がその解決に当たった。その時代に戻っただけ。  《ラティオ》特殊スーツを作った某電子機器メーカーから、時折父さん宛てに文書が届く。A4サイズの茶封筒には、何が詰まっているのか、いつもボコボコしている。ベッドの上の父さんに無言で突き出すと、父さんはやはり無言でそれを受け取る。封筒を見てニッコリと笑い、俺が居なくなってから封を開ける。  《ラティオ》がメーカーのいい宣伝材料だったことを、俺は知ってる。誰が《ラティオ》なのかは秘密だったが、彼のスーツを作ったのは自分たちだと宣伝していた。技術の粋を見せつけるための道具として、《ラティオ》というヒーローは作られていたのだ。  *  要介護いくつだとか、この先何年生きるのかとか、俺の進路はどうなるかとか、家の中はいつもそういう暗い話題で満たされている。
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