HERO

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 父さんが仕事をしなくなってもう5年。高校生活も折り返しを過ぎ、将来について考えることも多くなる。 「好きなことをしなさい」  お金のことは考えなくて良いと母さんは言う。  それが上辺だけで、本当は働いて欲しいのだと、俺は察していた。  景気は悪くなる一方で、就職率も進学率も下がりっぱなし。就職氷河期とか、バブルの崩壊とか、そういうことを言っていた時代と比べればマシだと先生たちは言うが、それが本当かどうかなんて誰にも分からない。  あの頃とは違う。  まともな人間が肩を竦め、狂ったヤツらが好き勝手に人の命や財産を奪うような世の中だ。  政治は腐敗してる、まともな人間はテレビに映らない、碌なニュースがない。  この世界で好きなことをするとはどういう意味か。大人たちはどんな気持ちで俺たちに言うのだろう。  *  一緒に家にいるときは、定期的に身体をずらしてやる。オムツを取り替える。身体を拭く、着替えの手伝いをする。  その間、俺は一言も喋らない。 「修司は上手いな。力もある。介護の仕事はどうだ」  沈黙に堪えかねず、父さんが言う。それがまた癪に障る。
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