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幼い頃、俺のヒーローは、父さんだった。
科学を結集させた特殊スーツを身に纏い、颯爽と活躍する父さんは、他の誰よりも輝いて見えたし、格好良く見えた。
平和のために利用すべき科学が、人々の煩悩に支配され、悪用されてしまったこの時代、怪物や怪人が起こす事件を止めるのが、父さんの仕事。道を踏み外したヤツらと人知れず戦う姿に憧れを抱いた。
ラテン語で《理性》を指す《ラティオ》と名乗った正義の味方は、名の知れたヒーローだった。
他にもヒーローを名乗るヤツらはそれなりにいたが、メディアではこぞって《ラティオ》の活躍を取り上げた。人命救助から怪物退治まで、何でもかんでもやってくれる《ラティオ》は、最高のヒーローだった。
父さんが《ラティオ》に変身していることは秘密だった。友だちにも、先生にも、近所の人にも言っちゃダメ。父さんは商社の営業マンだということになっている。出張が続いて家を空けることも多いと言えば、不在を不審がられることもない。
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