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「一週間雨続く、って天気予報で出ちゃってたもんね」
女子の一人が、寂しそうにぽつりと呟いた。
「楽しみにしてたんだけどな、動物園。……一週間後の予報なんて、外れることも珍しくはないけど。それでもずーっと雨やまないし、勢い強いからみんな心配してるよね。どっかで洪水になるかもしれないって」
「げ」
「みんな、警報とかはよく見ておけよ。アホどもは漢字読めないだろうから親とかに読んでもらうように」
「委員長俺らを馬鹿にしすぎ!あと、そろそろどいてあげないと鈴木が潰れて死ぬと思う!」
「それな!」
そういえば忘れてた、と思って尻をどけてやると、ふざけていた鈴木少年はすっかり伸びていた。うまそうな揚げパンが空を飛んでるう、とか呟いてるからまあ大丈夫だと思うが。
とにかく、このままの天気が続くのは非常に困る。クラスの半数以上は、遠足を楽しみにしているし天候に恵まれるのを期待しているはずだ。多少天気が悪くても遠足は決行されるが、大荒れの場合はその限りではない。中止になってその日一日授業、なんてごめんだった。去年まさにそのパターンで、暖かい丘の上で食べる予定だったお弁当を寂しくみんなで教室で食べる羽目になったのである。今年はなんとしても、天気に恵まれてもらわなければなるまい。
特に今回の遠足は――個人的に狙っていたこともあるから尚更だ。がたん、と音がして振り返ると。数名のクラスメートが、背中を丸めてランドセルを背負い、教室を出て行くところだった。
このクラスには、クラス替えの当初から異様に雰囲気の暗い者達が数名いる。去年、二組に在籍していた男女だった。その理由を、他の生徒達はみんな知っていたりする。――去年の二組は、学級崩壊寸前だったのだ。
「村松君達、ずっとあの調子だよね……」
クラスで一番可愛いと評判の長岡さんが、心配そうに教室の出口を見つめた。
「私、話で聞いただけなんだけど。本当に酷かったらしいよ、去年の二組。主犯の女の子達以外、ほとんどがターゲットになったんじゃないかって。それでずっとああやって俯いてる。一体何が、いじめてた人達の気に障るかわかんないから」
「最低だな」
「ほんとだよね。……遠足とかも、気が進まないみたい。遠足や動物園が嫌なんじゃなくて、集団行動が辛いんだって。去年のことを思い出しちゃって、どうしても友達を新しく作るのも怖くて……結局遠足の班も余り物でグループ組んだみたいになっちゃったから」
「あー……」
あの班決めというやつ、なんとかならないものだろうか。俺も何度か担任に掛け合っているのだが、一向に耳を貸してくれる気配がない。あれは、コミュニケーション能力が高い奴だけが楽しくて、そうでない奴があぶれる典型的システムだ。好きな人同士で組ませる、というのがその少数派にとって悪夢でしかないことに教師は気づいていないのか。それとも“それが嫌なら友達を作ればいいのに”とでも思っているのか。先生が決めてしまった方が丸く収まることも実際は多いというのに。ただでさえ孤立しがちな者達に、いらぬ傷を作ってどうするというのか。
勿論俺も、他のメンバーが決まっていない時は積極的に孤立しがちな者達に声をかけていきたいのだが。自分でいうのもあれだけれど、友達の数が多いのだ。基本俺自身が余らない。そして、一緒になりたい!と言ってくれる彼らを無下にするのも気が引けるのである。
「……よし」
俺はもう一度窓の外を見た。灰色の、分厚くて忌々しい雲。うっとおしいほどやまない雨。今回はそれを利用させてもらうとしようではないか。
「明日の道徳の時間さ、生徒で相談して好きな活動にしていいってやつだったよな。みんなで協力してできることを考えてこいって」
「ん?そーだったと思うけど、なんで?」
「みんなでやれること、思いついた。元二組の奴らも巻き込める方法」
にやり、と俺は笑って言った。
「みんなでてるてるぼうず作るんだよ、超でっけーの!」
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