罪と罰

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罪と罰

 ――私の生に何か意味があったのだろうか。  男はただ白いだけの部屋でひとりごちる。  過労で倒れて運ばれた先の病院。  一人娘の死から逃避するように、仕事に打ち込んでいた結果だった。  娘と言っても、血が繋がっているだけの他人に等しい。  一緒に生活したことは一度もなく、顔すら合わせたことがない。  きっと、会っても父親だとわからないだろう。  それは男の元妻の意向だった。  有名な女優の元妻。彼女との偶然の出会いが男の運命をねじ曲げてしまった……。  妊娠が発覚し、籍を入れた二人。  結婚式は行わず、同棲もせず、ただ戸籍上だけの繋がり。  女は産まれた娘を自分の付属品として扱っていたらしい。  写真が送られてくるものの、一度も会うことなく娘のアルバムがうまっていく。  そんな虚しさを抱えながら、仕事に打ち込むことで気をまぎらわしていた。  娘が高校を卒業したあと、元妻との離婚が成立した。  元々破綻していた結婚生活。籍を入れただけの関係に、お互いに未練はなかった。  娘が大学に入学したと連絡が入り、最寄りの駅で男が娘を見かけることも増えた。  男の会社と娘の大学が同じ駅周辺にあるのだ。  そして、その日、男の目の前で娘が死んだ。  明るく染めた髪が風に揺れ、意中の男と共に電車に引き潰された。  引き裂かれた二つの身体。娘の首が宙を舞い、ぐしゃりとひしゃげた。  見ていられず、目を背ける。  辺りには悲鳴と絶叫が響くだけだ。  元妻に連絡しても繋がらず、やっと繋がったと思ったら『あなたが処分しておいて』と、娘はまるで害虫のような扱いをされた。  ――この子は何のために産まれてきたんだろう。
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