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アーベントロート
誰でももうすぐ命が尽きるなら
心残りや逢いたい人がきっとある筈…
でも…もうこれでいいのだろう…
意識が薄れ…滲む眼前に拡がる景色…
小さな頃に海風の音と
潮の香りを感じながら
父と一緒に駆けた草原の色を
橙色に染める夕焼けの空…
父の肩に跨がって
真っ赤な空に両の手を伸ばす…
明日は晴れると嬉しそうに話す父…
一番星が輝くのを見届けて一緒に母の元に
帰ったあの日と同じ色の空…
自分の鎧を貫いた矢は
気を失いそうになる痛みと引き換えに
失った大切な恋人を連れて来た…
側に寄り添い、ただ微笑んで
僕を見つめる恋人の優しい眼差しに
生きてきた証を思い出す…
数多の戦場を駆け
あまりに多くの業を
重ねてきた僕にとってその優しい眼差しは
夕焼けの空に虹を重ね…映し出す…
その虹は僕の瞳に溢れて止まらない涙の
せいだろうか…
…ああ…もう…時間が…
ごめんよ…ごめん…
今更の後悔の言葉を口にしても
君は微笑むことを決してやめない…
僕は後悔の言葉を紡ぐのをやめて
君に伝えたい事を口に出した…
い…てる…
あ…い…して…る…
自然に目を閉じる僕…
浮かび上がる身体…
恋人に抱きしめられて
宇宙へと昇っていく…
アーベントロートの大地を
見下ろしながら…
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