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お父さん
普段多忙で、家にいることが少なく顔を合わせることも少なかった父。
ある日曜のお昼ごはんに定番のカレーライスを食べていたら、珍しく父が食卓に座った。母が無言で金色のスプーンを手渡してる。
いいなぁ。他のみんなは銀色なのに。茹で卵が添えられるのも父だけ。特別扱いするの、なんだかズルい。
おまけにカレーライスにウスターソースをかけて食べるんだ。そのままで美味しいのに、よくわかんないなー。そういえば目玉焼きにもウスターソースだっけ。今ではわたしも同じだけどね。
翌週の日曜は歯医者さんを頑張ったからと、父とふたりでお出かけ。お菓子を買ってくれたその足で、仕事場の近くにある鉄板焼き屋さんに入った。はじめてのカウンター席にドキドキしながらも、宙で足をぶらぶらさせて遊んでた。昼間なのに薄暗い店内や所狭に並べられたガラス瓶はお酒みたい。
やがて父は美味しそうにお好み焼きを食べながら、人差し指を立てた。
「お母さんは料理苦手だからさ。洋食はウスターソース、和食はしょうゆかけたらマシなんだよ」
ナイショだと店主に目配せしながらニヤニヤしてる。
「お父さんだけ金色スプーンのくせに」
「一家の大黒柱だからな。ハハハハッ」
いつかチクッてやる。お母さんの愛情を笑うなんてヒドイ。上目遣いに軽く睨んだわたしの頭をポンポン撫でた手のひらの重さとあたたかさ。
しょうがない。今は黙っといてあげる。
ダイニングテーブルの定位置には、ふかふかのクッション。みんなより長い箸や金色のスプーン。新聞を一番に読むとか、風呂を沸かしたら一番に入るとか、父を敬うのは当たり前だった昭和の思い出。
んん?カレーライスはともかく、目玉焼きって洋食だっけ?
〘完〙
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