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淡い桜の花びらが舞い、暖かな日差しが青年を照らす。漆黒の髪がキラキラと煌く。血のように赤い双眸がある建物を捉えた。ーー白崎学園と呼ばれる建物に青年は一歩足を踏み出した。
緑溢れる敷地内に英風な建造物。まるで王国のようだ。ここは日本でも有数な金持ちの子息が通う学園である。初等部から大学までエスカレーター式で一貫されている学園は偏差値も高く、世間からの評価も高い。例外として外部生も入ってくることもあるが、その数は全体の1%にも満たさない。
目立つ黒のコートを身に纏い、理事長室へと向かう。金持ちの学校なので馬鹿みたいに広く、青年は大きなため息を吐く。
しばらく歩き、ついに理事長室に到着した。大きく、重そうな、威厳のある扉を開けた。扉の向こうから眩しい光が差し込んだ。白のスーツを身に纏い、穏やかな微笑みを浮かべる男がいた。そう、この学園を創設した白崎颯太理事長である。
「ようこそ、白崎学園へ。よく来たね、ーーくん」
青年は静かに頷く。
「君を呼んだのは、他でもない。単刀直入に言うね。君にこの学園を守ってもらいたい」
「なぜでしょう?」
「まだ言えない。けど、これだけは信じて欲しい。僕は君のことを信用している。ーーあいつが育てた子だからね」
青年は無表情なままである。だが、その鋭い目つきの奥には、温もりがあった。
「そうですか。まぁ、この年にもなって制服を着るとは思いませんでしたがね」
青年は苦笑いをした。
「依頼を受けるってことでいいね?」
「はい。俺は何者でもない。ただのーーです。しかし、依頼を受ける代わりに…」
「君のことは普通の学生として扱う…だね?」
「はい。明日は入学式ですよね。俺は庶民として過ごさせてもらいます。
…安心してください。この学園は護りますよ」
かすかに口元を上げた。
颯太は手招きをした。青年は颯太のもとへ歩いていく。そして、片膝を床につけ、頭を少し下げた。まるで王様から寵愛を受けるかのように。
「ーー。君を2代目守護神に任命する」
大きな窓から光が差し込む。二つの影がうまい具合に重なり、まるでイギリスで行われる王冠授与式のようだった。颯太の重々しい言葉を深く受け止めた。
ーーーー嫌われても、疑われていても、彼らを護り続けろ。
それがどんなに大変なことか、想像するまでもない。
青年は3年間の青春を彼らのために捧げるのだ。それが使命なのだから。
青年の赤い目がギラリと光る。そこからは強い意志が見られた。
「ーー任せたよ」
「仰せのままに」
青年は扉に手をかけた。そして、振り返った。
「俺をここに呼んでいただきありがとうございました。ーーあなたとあの人が愛するこの学園を護ってみせます」
「…うん、ありがとう」
ーー青年は目を細め、妖艶な微笑みを浮かべた。その微笑みが誰かと重なって見えた。青年は扉の向こうへと消えた。
颯太は椅子に深く腰掛け、目を閉じた。懐かしい声が颯太を呼ぶ。
『颯太。お前ならできる』
ゆっくりと目を開けた。
「ああ。僕はこの学園の理事長だ」
颯太は紅茶を飲んだ。
「さぁ、どこからでも来るがいい。なぁ、“ダーク”…」
颯太は立ち上がり、理事長室から去って行った。誰もいなくなった理事長室にはただ、颯太の低い声だけが、残っていた。
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