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巡くんを拾ってきた時は大変驚いた。
あの時の巡くんは何もかも諦めたような眼差しをしていた。ーーまるで、大切なものを喪い、雨に打たれ続けたあの頃の剣のように。
剣は巡くんを養子にすると、聞かなかった。大事に育てたいんだと力強い意志を持っていた。
剣の優しさと温もりに包まれて、巡くんは少しずつだけれど感情を見せるようになった。
そんな巡くんを見つめる剣の眼差しは愛しさで溢れていた。
ここだけの話ね。
僕は、この時、一瞬だけ、
剣と家族になれたような気がしたんだ。巡くんの存在によって、僕たちは家族になれた。そう思ってしまったんだ。
ーーーそんなわけないのにね。
僕と剣は友達で。
それ以上はない。わかっている。わかっているけど、どうしても剣への想いが溢れてしまいそうで、胸が苦しかった。
剣は巡くんに居場所を与えたいと、かつての僕と同じことを言った。
ちょうどその頃、湖太郎の息子が生まれた。
それが、隆明くんだった。10歳下の隆明くんを巡くんは大切に思っていた。命懸けで護ると誓った。
隆明くんを大切そうに抱っこする巡くんを見て、剣は嬉しそうに大きく笑った。
「よかった。これで、めぐは1人じゃない」
その言葉の本来の意味に気づかなかったことを僕は今でも後悔している。
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