ダーク~本章~

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同時刻にて、隆明は今もなお、綾瀬のことで心が揺れていた。 「あ、あの」 高い声が聞こえた。 振り返ると、隆明の親衛隊たちがそこにはいた。 「伊集院様にお会いしたい、という方がいらっしゃってます」 「俺に?誰だ?」 「僕たちも分かりませんが、急ぎのようなので…」 誰なのだろうか。心当たりが全くない。 「ーー分かった。どこにいるんだ?」 「裏庭の方です」 「そうか。ありがとな」 初めて隆明からお礼を告げられた親衛隊の目には涙が浮かべていた。 その姿を見た隆明はこれまでの自分がしてきた行為がひどく恥ずかしく思えた。 こんなにも簡単だったのだ。 親衛隊だからと、蔑むのではなく、他の皆と同じように接するべきだった。 綾瀬に言われたことが、今になって何度も何度も思い出す。 隆明は裏庭へ向かった。 裏庭には誰もいなかった。周りを見渡してみると、どこか見覚えのある顔をした坊主頭の男がいた。 鋭い目つきで見つめられ、隆明は戸惑う。 「綾瀬巡について知りたいか?」 坊主頭の男にそう問われ、隆明は一瞬だけ綾瀬のあの優しい微笑みを思い出した。 いつも俺を助けてくれる後輩。 いつも俺に大切なことを気づかせてくれる後輩。 ただの後輩ではなくなっていることに、気づき始めていた。 少しでも、綾瀬のことが知りたくて。 教えてもらえるのなら都合が良い。 俺はお前に、伝えたいことがあるんだ。 「知りたい」 坊主頭は顎でついてこいと示した。 隆明は足を踏み出した。
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