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坊主頭の男にそう問われ、隆明は目を見開いた。
なぜそんなことを聞いてくるのだろう。
坊主頭の男には何の得があって、聞いてくるのだろうか。
わからない。
わからないけど、隆明の答えは決まっていた。
「俺を…ちゃんと見てくれるやつ。悪いことをしたら、ダメだと叱ってくれる。良いことをしたら、すごいですね、と褒めてくれる…。そんな奴だ」
そんな隆明の答えを聞いた巡は目頭が熱くなった。
執事冥利に尽きます。
巡はそう強く思った。
「そうか。お前にとっても大事な奴なのか」
『お前にとっても』と坊主頭の男は言った。彼は綾瀬巡のことを少なくとも悪くは思っていないのだろうか。
「なぁ、お前は何が目的で綾瀬を狙うんだ」
今度は隆明がそう問いかける。
沈黙が続く。
ようやく坊主頭の男の口が開く。
「綾瀬巡のことを殺したくて、殺したくて、仕方がない人がいるのだ。その人の願いを叶えるのが俺の仕事だ」
「その人はお前にとって、大事な人なのか?」
「ーー大事、だな。うん、大事だけど、それが果たしてお前のように純粋な感情なのかは分からない」
心無しか、声が小さくなっていく坊主頭の男。
彼は彼なりに葛藤しているらしい。
ここまでなかなか掴めなかったダークの部下の本音を聞けたような気がする。
「大事な人はダーク様だけだ」
「思ったんだけど、大事な人って必ずしも1人じゃなくていいと思うぞ」
隆明の言葉に顔を上げた坊主頭の男。その表情には驚きの色が孕んでいた。
「え?」
「俺も大事な人たくさんいる。家族や生徒会のみんな、そして…」
しっかりとした声で、隆明はこう言った。
「綾瀬もだ」
巡はインカムから静かに、隆明の言葉に耳を傾ける。成長した愛おしい子の言葉を聞くのは、なんて心地よいのだろう。
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