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「きっと、そのダーク様もお前にとっては大事な人なんだろう。けど、他にもいるだろ?お前にとって光のようで、大事な人が」
ハッとしたような表情を浮かべた後、困惑の眼差しをする坊主頭の男。
ダーク以外の者を慕うことは、裏切りのほかないと思っているのだろう。
「お前がどんな事情を抱えているかは知らんが、少なくともそんな顔にさせる人を大事な人とは言えないと俺は思うがな」
「……」
何も言えなくなった坊主頭の男。彼の頭の中には、ある1人の学生の顔が浮かんでいた。
太陽のような笑顔で彼の名前を呼び、頼りにする。その人に名前を呼ばれたり、頼りにされたりするのが、心地よくて、好きだった。
今自分がしている行為はいずれ、その人を傷つけることになる。
そうわかっていても、ダーク様を裏切ることはできなかった。怖いのだ。
「ならば、俺はどうすればよかったのだ…っ!」
初めて感情を爆発させた坊主頭の男。
「俺は、何のために…っ!」
人を殴り、
人を蹴り、
しまいには、命を奪った。
ダーク様の命令だから、と自分の行為を正当化していた。
それは間違っているとわかっていても、止めることはできなかった。
「お前も色々大変だったんだな」
綾瀬巡の心を壊すために利用したはずの伊集院隆明は、黎明のようだった。
命を狙っているこの俺に向かって、労いの言葉をかける。
そうか。
だから、綾瀬巡は伊集院隆明を大切に思っているのか。
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