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「巡…ありがとな」
早足で歩いて行く巡の背中に向けて、桃李は言った。
「俺さ、断るの苦手でさ」
ポツリ、ポツリと話し始める。
「俺、実は変装しているんだ」
知ってるけど。
「素顔が、目立って、それで周りからはチヤホヤされてきたんだ。だから、みんなに嫌われたくなくて、できるだけ断らないようにしているんだ」
顔がいい人はその人なりの悩みがあるらしい。
「生徒会のみんなだって、きっと俺みたいな経験もしているだろうから。それで断るのは少し嫌だなって」
きっと愛されて育てられたのだろう。口調や態度からそれがよく分かる。
巡はかすかに口元を上げた。
「お前はそれでいいと思うよ」
桃李を見ずに、そう言った。桃李は嬉しそうに笑う。
「そっか!ありがとな」
小走り気味で、巡を追いかける。
「許さない」
誰もいない廊下でその言葉だけが、響いていた。
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