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「五十年、一緒にいたのにね……」
あなたはもの言わぬ遺影で笑顔を見せる。
「お酒も煙草も許して好きなものを食べさせた私がいけなかったのかな?あなた、寂しいよ……」
あなたが数日前まで、この家で暮らした名残は消えやしない。消したくない。だから、ロングピースが目の前にある。
「あなたは幸せだった?」
こんな歳になって、そんなことが気になるとは思わなった。突然にいなくなったあなた。
「私は幸せだったよ。あなたがずっと笑っててくれたから」
涙が止まらない。
「もっと一緒にいたかったよ」
発泡酒を口に流し込む。雨は私の涙の音を遮るように降り続ける。まだやまないで。あと何日か。私が泣きつかれるまで。
あなたがこの家に残してくれたもので、しばらくは暮らせそうです。でも煙草だけはどうすればいい分からないよ。
「天国でちゃんと私を待っていてね」
雨音がしとしとと響く中、私はあなたの遺影に語りかける。
「ねぇ覚えてる?」
了
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