しとしとしと

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「煙草の何がいいんだろうね」  一人呟いても返事をする人はいない。とぼとぼと歩き、小一時間の散歩を終える。自宅に戻りコーヒーを淹れる。あなたはコーヒーが好きだから、お茶の時間はほとんどコーヒー。私は緑茶が好きなのに、知らずにあなたに合わせていた。  居間の机には無造作にロングピースが置かれている。もう何日見たか。それは一向に動かない。  コーヒーを飲みながら、あなたが集めた文庫本を手に取る。あなたは本が好きだ。読むことより集めることが一生懸命だったんじゃないかと思うほどの手つかずの小説たち。少しは暇つぶしになるだろう。  本にのめり込むうちに日が暮れる。飲みかけのコーヒーはすでに冷めた。雨はまだ降り続ける。夕飯も簡単でいい。素麺に漬物があればいい。どうせ夜は早く寝る。  台所に立ち、冷蔵庫を確認する。あなたが好きな発泡酒が冷やされている。一本もらおうか。そうしなければ減らない。お酒にも弱いくせに晩酌だけはちゃんとしてさ。安い発泡酒で満足してさ。  でも、お風呂から上がってからにしよう。夕飯を先に。  簡単な夕飯を済ませて、お風呂を済ませて、あなたのお気に入りのグラスを取り出して、冷えた発泡酒をいれる。しゅわりと涼し気な音がする。一口すすると涙が出てくる。
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