しとしとしと

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しとしとしと

 心太(ところてん)に胡瓜の浅漬けにお茶漬け。こんな雨の降り続ける時季はさらりといきたい。あなたは足りないというかも知れないが、私はこのくらいでいい。雨音だけだと寂しくてテレビをつける。内容などどうでもいい。音が欲しいだけだ。思えば、あなたは無口なくせに存在感だけはやたらあった。静かに笑うその仕草は安心感があった。  手早く昼食を済ませ、体がなまらないようにと散歩に出る。差すのはお気に入りの傘。ぶっきらぼうなあなたがプレゼントしてくれたものを何年も使っている。あなたがこの傘に入れば、小さい傘だが一人だと大きい。  しとしとと雨音が響く中、あてのない散歩を続ける。時折、紫陽花が目に入り込むと少しだけ嬉しくなるが、声をかける人はいない。あなたと歩けば、ちょっと煙草休憩と言い出して私には手持ち無沙汰な時間があるのに今はそうじゃない。
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