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「私の場合は、横断歩道以外の道を何か地面より一段高くなってるもの、縁石でもいいし、降りないで伝って歩くの。
それがなかなか難しくてさぁ。絶対ガードレールとかが出てきて挫折すんのよ」
気づかないうちに私は、この風変わりな男性にペラペラと子供の時のくだらない話を延々語っていた。
ふと我に返り、恥ずかしくなって横目で男性を見ると、にこにこと頷きながら、まるで自分の事のように楽しそうに黙って聞いてくれていた。
――なんだかんだで私たちは数十分の道を他愛もない話をしながら歩いていた。
近所のコンビニの前に差し掛かると彼は足を止めた。
「本当に先ほどはすみませんでした。夜道ですのでお気をつけて。僕がご自宅までお送りするのも……。初対面ですしね」
「あ、そうだね。頭は大丈夫。今のところはね……なんて。本当に何でもなかったから」
「では、僕はコンビニで買い物して帰りますので、こちらで失礼します」
「そかそか。うん。じゃあね〜」
ひらひらと手を振り、私はゆっくりと歩き始める。
「あ、あの。さっきはその……あんな状況ではありましたが、その……お話できて楽しかったです。なんだか懐かしいような気持ちに……お知り合いでもないのに、変ですよね。ハハっ」
まるで憧れの先輩を待ち伏せして告白をする女子学生のように、彼が分かりやすくもじもじとしている様子が、視界の隅に確認できる。
私は思わずまた噴き出しそうになりながら、振り返りつつ答える。
「こちらこそ、ちょっと会社で嫌なことあって1人でやけ酒中だったから、話できて楽しかったよ」
「良かった。あの、良かったら、またお見掛けしたら声をかけても」
「あ、うん。今日みたいに夜にぶらぶらしてるかは分からないけど。割と仕事が不規則でさぁ」
急に照れ臭くなって、素直に私もまた話してみたいと言えなかった。
顔が火照って真っ赤だろうし、ろくに彼の顔も見ずに進行方向だけを視界に捉えて歩き始めた。
顔あげてちらっと道路脇のミラーを見ると、まだこちらを見守って立ってくれているのが分かる。
きっといい人なんだろうな……
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