5人が本棚に入れています
本棚に追加
――こっちでもこんなに星が綺麗に見える日ってあるんだ。
スーツが汚れてしまうのも構わず、大きく伸びをしながら土手に寝転がる。
久しぶりに嗅いだ、緑の匂い……
なんだか懐かしくて、ここが故郷から遠く離れた都内近郊だと忘れてしまいそうだ。
帰り間際、さんざん上司のお説教を浴びせられて、駅構内のコンビニで缶ビールとナッツを買い、まっすぐ誰も待っていない家に帰るのが嫌で、こうして寄り道をしている。
ビールとつまみと私……
――私は、おっさんか。
つっこんでくれる相方もいない私は、また、グビっとビールをあおり、芝の上にもう一度寝転がる。
上司のお説教が頭の中で永遠、繰り返され、酔いのせいもあってか急に涙が溢れてくる。
(くそー、私はこんな思いしたくて東京に出てきたわけじゃないんだぞ)
上京するまでの私はデパートもおしゃれなカフェもない、ど田舎で独り、東京でスマートに暮らしている自分を想像しては、明るい未来設計図を描いていたものだ。
それが上京して1年、早くもあんなに憧れていた東京に挫折しかけているなんて……
親や地元の友達には盛大に送り出されてしまった手前、なかなか愚痴もこぼせない。
どうにか理由をつけて、実家に帰れるよう頼んでみようかな……
急に弱気なった私にビールは、これでもかと体内を侵食し始める。
(あー、もう今日は最悪ここで寝ちゃってもいいか。こんな泥酔女に声をかける猛者もいないだろう。ストッキングも破けちゃってるしなぁ)
ゆらゆらと揺れながら上半身だけ起き上がり、僅かに残っていた乙女心でストッキングの破れ目を確かめる。
――コツーン!
私の頭頂部に何か硬いものがぶつかった。
「痛ったー!」
即座に頭を触って確かめる。
どうやら、出血はしなかったようだ。
酔いのせいで頭に隕石でも降ってきたのかと思った……
けれど降ってきた隕石が頭に当たるなど、宝くじの一等当選確率よりも低いと聞く。
頭の衝撃で急激に酔いが冷め、降ってきた小石を手に私は辺りの様子を確かめる。
最初のコメントを投稿しよう!