序章 運命の夜

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彼は驚愕しているようだった。それも、ずっと一緒にいた大亜ですら見たことの無い表情。 「ダイヤ…何で、こんな…」 「ふう…君が凄い勢いで走ってくの見ちゃってさ。気になったついてきちゃった。それにしても、あんな走りできたんだな。陸上でもやった方がいいんじゃない?」 「今だけは…今だけはお前に…」 「え?」 「…会いたくなかったのに」 会いたくなかった。小太郎の口からそんな言葉が出てきたのは初めてだった。 なぜ、と訊ねる前に、雲隠れしていた満月が姿を現す。 月明かりが2人を照らすと、小太郎の体に変化が現れた。 黒髪は白く脱色され、白い狐の耳が生えていた。 小太郎の背中には、ゆらりゆらりと何かが揺れる。 尻尾だ、それも9本。 「…何でよりにもよってお前に見られるかなぁ」 「嘘…だろ…」 彼は小太郎だ、間違いない。しかし。 「小太郎、君は…」 九尾の狐。おとぎ話によく出てくる、伝説上の妖怪。 小太郎はしばらく何も言わなかったが、しばらくの静寂の後にようやく重い口を開いた。 「なあ、ダイヤ」 彼は自嘲気味に軽く笑った。 大亜はその目を見た。マリンブルーのその目は…とても、悲しげであった。 「ダイヤ、俺たちはずっと一緒に過ごして来た…でも、改めて問うよ。なあ、俺はお前の親友でいられるか?」
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