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君と僕。
屋上のフェンスを越え、彼女は振り返らずに言った。
「ねぇ、君はどうしたい?」
いつも通りの声、
透き通るような美しい声なのに、その声にはなにも感じられない。
こんなに近くにいるのに、彼女とは別の世界にいるようだ。
「まだ、わからない…」
鳴り止まない蝉時雨。
時折、波のように聞こえる葉擦れの音。
彼女は空を見つめたまま綺麗な髪を棚引かせる。
「ほら、きなよ。
綺麗だよ」
僕はフェンスの外側に行き彼女の横顔を見る。
長い睫毛に、透き通るような瞳。
眩そうに細める目はユラユラと煌く。
暑夏の校庭は熱を照り返す。
その眩い熱に思わず目を細めてしまう。
「ほら、きれい、でしょ?」
彼女の指の先には青くキラキラと輝く海。
太陽は水平線を朱く溶かす。
「ねぇ。
君さ、世界の裏側、みてみたくない?」
その言葉に振り向くと彼女は、
無邪気で、美しい笑顔でこちらをみて、
「いこっか」
手を差し伸べられた僕はその手を握った。
彼女は幸せそうな笑みを浮かべた後、地面に背を向けるように飛び降りた。
僕は無抵抗に、向かい合うように落下する。
「ふふ、
…△※じゃったね」
地面が近付くほど、世界が透明に感じる。
目が覚めるような感覚。
それでも、恐怖は感じなかった。
彼女の手を優しく握る。
『僕たちは、』
そして、地面に落ちた。
その瞬間に感じたのは不思議な感覚だった。
ただの校庭に落ちたはずなのに、感じたのは海に飛び込んだような感覚。
まるで、さっきまで眺めていた朱く染まる海のような。
「ほら、綺麗でしょ?」
「うん」
僕たちはそのまま、海に沈んで行く。
青く朱い海に。
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