38人が本棚に入れています
本棚に追加
カッカッと音を立てて
先生の持ったチョークが黒板を滑る。
『一色 千鶴』
黒板に書かれた文字はそう記されていた。
「今日からこのクラスに転校してくる
一色 千鶴さんだ。
もうすぐ冬休みで突然のことだが
みんな仲良くしてやってくれ。」
「……。」
静かに佇む一色さん。
その可愛らしい容姿に
ざわついていたクラスメイトたちは
気づけば静かになっていた。
「じゃあ、一色。
軽く自己紹介お願いできるか?」
「…はい。」
どこか気乗りしないような
哀しそうな表情で頷き、
スゥっと小さな息遣いが聞こえた。
「えっと…い、一色 千鶴と申します。
…家庭の事情でこの街にやって来ました。
あっと…えー…残り数ヶ月ですが…
よ、よろしくお願いします。」
緊張しているのが伺える話し方。
この時期の転校生ということで、
頻繁に転校を繰り返してきた子かと勘ぐったが、
どうやらそうではないらしい。
パチパチと小さく拍手が教室に広がる。
割れんばかりの拍手喝采という程ではないが、
みんな突然の来訪者に興味はあるようだった。
「うむ、自己紹介ありがとな。
席はあの茶髪の男子の隣に座ってくれ。」
「……はい。」
僕に目線と手を向けながら、
一色さんを誘導する担任の先生。
クラスメイトたちの目線が僕へ…。
いや、その隣の席へと向く。
ゆっくりと歩を進めて着席した一色さん。
どこか居心地の悪さを感じているようだった。
「よし、じゃあ紹介も終わったところで
朝のHRを続けるぞ。
一色以外は全員この前のプリントを…」
転校…。
柚希さんは僕らと家族になった時、
この街に転校してきている。
柚希さんは中学生の頃、
一体どんな気持ちだったのだろう。
先生の声を聞き流しながら、
横目で彼女を見る。
窓際の彼女は
この冬の寒さに取り憑かれたような
どこか困った表情を浮かべているように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!