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火の手が轟々と家屋を踏み鳴らす。
焼けた木材の焦げる匂い。
黒煙が立ち上り空を覆う。
声にならない叫びを上げて
ただただ僕は泣きじゃくっていた。
消防隊や警察が幼い僕の体を抑えこむ。
「中にまだ人が…
おそらくこの子の母親かと…。」
「すぐに救助に向かうぞ!」
たくさんの大人たちが
後ろで声を荒らげさせながら
右往左往動き回る。
『想太にもきっと大切な人ができるよ。』
『そんな大切な人から見て、
誇れるような人になろうね。』
『優しく、困ってる人がいるなら
助けてあげようね。』
こんな時に僕は
母からよく言われていた言葉を
思い出していた。
まだ母は家の中にいるのに…。
まだ生きているのに…。
嫌だ…嫌だ……。
思い返した言葉が引き金となり、
僕はよりいっそう強く泣き叫ぶ。
「火の手が思ったより凄まじいです!」
「これでは正面からの侵入は不可能だ!」
「2階からの侵入は無理なのか!?」
「急げ!人命がかかってるんだぞ!」
けたたましいサイレンの音。
たくさんの野次馬の悲痛な声。
滅多に見れない大人たちの慌てる足音。
その全てが僕の頭の中を
かき回すように響いていた。
上った黒煙が混ざった曇天から、
白雪がはらりはらりと舞い落ちる。
乾燥した空気と僕の家、降ってきた雪。
その全てを燃え盛る炎が飲み込んだ。
小学校に上がりたての幼い僕には
火災という災害の洗礼はあまりにも大きく、
僕の記憶はそこで閉じていた。
次に目を覚ました僕は病院だった。
父から聞かされた母の訃報に、
腫らした目をさらに真紅に…
血が出るほど叫んだ喉をさらに酷使して…
ただただひたすらに泣き叫び続けた。
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