1枚目 夕焼けの駅前

2/20
前へ
/158ページ
次へ
…………… ……… … 「…それでね、お母さんったら帰りに  牛乳買ってきてって言ったのに  梨を買ってきちゃって。」 「それはもう買ってくる物  そのものが違うんだけど…。」 「そうなの!私はね、  『ヤマナシ』っていうブランドの  『低温殺菌の牛乳』を買ってきて  って頼んだの。」 「うんうん…。」 「そしたらそんなのない  って言われたんだって!  私がいつも行くスーパーなのに!  それっておかしくない?」 「……変だね。」 冬の寒さ満ちるアスファルトの上。 いつも通りの通学路を柚希さんと たわいも無い話をしながら歩く。 中学から登下校を共にしている。 いつもと変わらない光景。 「お母さん店員さんになんて言ったの?  って聞いたら、  『低温殺菌のナシはどこにありますか?』  って聞いたって…。」 「…あー、ごっちゃになっちゃったんだ。」 「うん、我が母親ながら  その天然さに戦慄してしまったよ。」 うんうんと頷く義理の姉。 この会話だけで十分、 彼女の母親との仲の良さが伺える。 本当になんてことない会話。 僕は幼い頃母親を亡くしている。 原因は石油ストーブの不備による火災。 あっという間に炎は燃え広がり、 僕だけを逃がしてくれた母はそのまま 家屋に取り残されてしまった。 結果、家屋は全焼。 外で仕事中だった父と 逃げきれた僕だけが生き残り、 数年前まで家族2人きりで生きてきた。 僕が中学に上がるのと同時に、 同じく事情あって母娘2人になっていた 当時父さんの同僚だった 柚希さんのお母さんと僕の父さんが再婚。 晴れてと言っていいのかは分からないが、 僕と柚希さんは姉弟になった。 当時は僕が中学生ということもあり、 ギクシャクしていたが 今ではすっかり本当の姉弟だと思われるほどに 仲のいい関係になっている。 もっとも、義理の姉弟であることは 周りの誰にも公言していないのだが…。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加