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破恋
ぽかぽかと入ってくる陽射しがフローリングを照らす。
春下がりの午後はまだ少し寒かったけれど、六畳一間の私の一人暮らしには少し暖房をつけるのは躊躇われた。
床につきそうな私の髪が見返していたアルバムにかかる。
「懐かしいなー!あ、これ珍しい!こー君笑ってる!」
片付けをするつもりだったのにこういうものを見つけると手が止まって座り込んでしまう。
もう机も持っていかれたので床に座り込むしかないが、床がひんやりとしていて少し冷たい。
ぺら、とめくると今度は二人でイルミネーションを見に行った時のもの。
夜に撮ったので見えにくいが確かに私の笑ってる写真やイルミネーションに大興奮して指を指している私がいる。
幸君は私の事を撮るのにいつも一生懸命なのであまり写真がないのが悔やまれる。
「…私ももちっと幸君の写真撮ってればよかったなあ…」
んー、と両手を空にあげて立つ。
硬い床はお尻が痛くなる。
かしゃん、と鍵の開く音がした。
「入るぞ。」
「あっ、幸くん!」
入ってきたのはまつげの長い、校内でも一位二位を争うイケメン、だと言われていた幸くん。
何故私を選んでくれたのかは分からないが、無事卒業後も長続きしていた。
「…あんだけ片付けたのに……」
「うっ、だって、だって〜…」
ワナワナと震えている幸くん。
当たり前かもしれない。
私の部屋なのに甲斐甲斐しく通い、私の部屋をせっせと片付けてくれているのは他でもない幸くん。
何回も怒られたので、今回も怒声が飛んでくるかと思ったら、そうでもなかった。
ふう、と一つため息を吐いただけだった。
どうしたのかな、そういえば、最近やたらとため息をつくことが多くなった。
ほら、今だって。
「…まぁいい。ちょうど良かったしな。」
ぺらり、とアルバムをめくり出す幸くんの後ろにひょこ、と顔を出し覗き込む形で一緒に見る。
「…これも駄目。これも、…どんな顔してるんだこれ。…これ、は…駄目。もうちょっとまともな顔、出来なかったのかよ」
震えている声で幸くんが話す。
「だって〜」
ブレているのも多く、大抵は満面の笑顔だったり、汚い食べてる写真だったり。
「…あった。これで、いいか。」
「えー、それ??あんまり気に入ってないんだけど。」
ぺらりと一枚取り出したのは、珍しく私が緩やかに笑っている写真だった。
正面から撮っている写真なんて珍しい。
私は大抵じっとしていなかった気がした。
「…なんで、こんな事しなくちゃなんねえんだよ。」
「…」
「ずっと、一緒にいようって、新居選びも、したじゃねえか」
「一人には、広すぎるかなぁ」
震えた声で責めるような声は、虚空に消えていく。
「遺影の写真なんて、選びたくなかった。」
ぽたり、ぽたりと彼の手のひらには滴が落ちていく。
私には、もう拭う事すらできない。
事故で、玲奈が死んだと聞いたのはまだ日が昇っていない時だった。
勿忘草 「私を忘れないで」
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