始まり日和

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 突然ではあるけれど、世の中にはおおよそに分けて二種類の人間がいる、というのが俺の持論だ。持論というより経験則から来る歪んでひねくれた人生観というものに近いけれど、あながち外れていない自信はある。少なくとも俺が今身を置いている世界よりかは充分に現実的な構造をしているだろう。  即ち持てる者と持てない者。俺の中での、人間のカテゴリーというのはその二つだ。それを言うなら持てる者、持たざる者だろうって? まあそういう言い方もあるんだろうけど、俺が言いたいのはそうじゃなくて、つまりモテる者とモテない者って言ったらよく伝わるだろうか。  どういったわけなのか、どうしたものかどうしても、どうもモテないそんな奴。何で何だって何をしたって、何がどうあってもモテる奴。まあそう極端な奴は例にならないとしても、分けようと思えばそういう二つの分け方は大いに意味がある。実際にいる。モテる奴とモテない奴。  そしてそういう意味じゃ俺は、かなりモテる奴だ。  俺はモテる。  それも極めてモテたくない相手に。 「俺に依頼……ですか」  未だ寒気が都会のビル群の隙間を縫うように流れて首筋をかすめ撫でる季節。突き抜けるような乾いた青空を見上げながら、俺は携帯電話越しの相手の声に白いため息で答えた。通話越しの相手は俺の気など知らずに愉快そうな声で言った。 『はっはっはっ、お勤めご苦労さん。おめでとう、と言うべきかな。ご依頼主さんは駅の改札口で待つように伝えておいた。もう着いているだろう』
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