ママ、あのね

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市役所からの帰り道、わたしは、はるとの手をひいて、スーパーマーケットに向かっていた。 はるとはつないだ手をひっぱり、街路樹のところでしゃがみこんだ。 「ん?どうしたの?」 「ママ、あのね。」 はるとは言葉が遅いのか、発する言葉を頭の中で咀嚼しているのか、あとの言葉がすぐに続かない。 これから買い物をして帰って、洗濯物を取り入れて、晩ご飯作って、お風呂に入れて、寝かしつけて… やることいっぱい。 想像しただけで、イライラしてきた。 「はると、晩ご飯のお買い物しなくちゃいけないから、いこっ」 はるとの言葉を待たずに、わたしは手を引っ張った。 はるとは小さくうなずき、立ち上がった。 スーパーマーケットの手前で、はるとは、立ち止まり、 「ママ、グースケ」 と言いながら、ズボンのポケットから何かを取り出して、わたしに見せた。 ウゲッ! だんごむし さっき立ち止まったのは、これだったのか。 これのどこがグースケなのかわからないが、彼が命名したらしい。 「はると、グースケ連れてスーパーマーケットには入れないよ。」 「なんで?」 「なんでって・・・ わんちゃんも外で待ってるでしょ。 スーパーマーケットには人間しか入れないんだよ」 自転車置き場の片隅に小型犬がリードでつながれている。 「じゃぁ、ここで待ってる。」 「ダメダメ、ママといっしょじゃなきゃ、悪い人に連れていかれるよ それに、はるとも食べたいものあるでしょ」 「ともころしっ!」 「ふふ、 とうもろこし買いに行こ」 「じゃぁ、グースケがお留守番?」 「うん、グースケにここで待っててもらおう」 わたしは、自転車置き場の脇の草むらをみつけて、指さした。 「わかった。グースケ、お留守番しててね」 はるとはだんごむしを草むらに置いた。 買い物を終えて、スーパーマーケットから出ると、はるとは草むらにかけよった。 「ママ、グースケいない」 「いない? グースケ、お家に帰ったんじゃないかな。」 「ママのところに?」 「うん、そうだよ、ママのところに帰ったんだよ。」 「そっか、グースケ、バイバイ」 はるとはわたしの手をとって歩き出した。 こういうところは素直でかわいいんだけどな。
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