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体の線に収まることなく、あまりに大きな乳房の曲線がはみ出ている。たわわな葡萄が実っているようだった。乳房には谷があり、膣には森と海がある。体に咲く果実は柘榴と葡萄。女性の体は何故こうも不可思議な世界を創り出すのだろうか。 取り憑かれたかのように黒瀬も服を脱いでいく。ボクサーパンツの生地が触れるだけで体が薄く跳ねるのだから、橘の中へと進んでしまったら一体どうなってしまうのだろう。喉から手が出るほど恐怖に似た快感を欲している自分が情けなく見えた。 布団の上で抱き合うと、彼女の全身に吸い込まれてしまいそうになった。吸収性の高い自由な肌。黒瀬の汗さえも彼女の裏に閉じ込めてしまう恐ろしさがある。8月末の夜はオーブンで温められているかのように汗を誘い出していた。 「涼子さん、避妊具は…。」 敷布団の上で仰向けになった橘は、恥ずかしげもなく両足をぱっくりと開いて両手を前に突き出していた。表情を緩ませて言葉を漏らす。 「いらないから、早く、来て。」 何もかもどうでもよかった。将来の不安、不甲斐ない現状、全てが靄にかかったようだ。カウパー腺液でねっとりと湿ったペニスを徐々に彼女の膣口へ忍ばせる。すぼんだような赤い穴に先端を捻じ込むと、敏感な箇所に濡れた数百本の指が這うような感覚に陥った。綱引きでも行われているようだった。じりじりとペニスの先端が引き寄せられて強制的に中へと落ちていく。生と性は小さな違いしかないのかもしれない。皆どこかへ落下しながら人生を過ごしているのだ。 穴と棒がしっかりと密着し、黒瀬は唸り声を上げた。体の中で最も尖っている箇所から電流が拡散していく。情けない避雷針だった。肌の上に伝う汗を貫いて細かい電撃が流れる感覚を、黒瀬は深く息を吐きながら声に出した。橘は眉を下げて微笑んでいた。 「あぁっ、すごい…幸太朗くん…。」 喉の奥から無理に抽出したような婀娜っぽい声が熱い吐息と共に流れていく。ゆっくり腰を前に送ると、彼女の腹に乗った薄い肉が揺れ始めた。どこに触れてもそのまま沈んでしまいそうなミルクの沼が艶やかに月明かりを跳ね返す。徐々に激しく動かそうとすると、一瞬で腰周りから熱が集合を始めた。このままではすぐに果ててしまう。スピードを緩めようとした時、橘は足を背に絡めて黒瀬を固定した。 「出そうです、涼子さん。」 「いいの。たっぷり出して。」 自ら腰をこちらへ動かす橘はぐりぐりと膣口で円を描き始めた。また違った快感が上乗せされて臀部が蹴り上げられる思いだった。その刹那、薄暗い部屋に小さな太陽が生まれる。やがて塊となって橘の中に注がれていった。 「ううっ、ごめんなさい…。」 震えながら欲を吐き出し続けると、橘はにっこりと微笑んで黒瀬の頭を撫でた。幼い頃に母に撫でてもらった母性を思い出してしまう。たまらなくなって彼女の乳房に貪りついた。男は生まれてから死ぬまでずっと女性の胸に憧れを抱き続けるのだろう。不思議な引力を持つ淡い乳頭を口に含みながら、黒瀬は明日のことなど考えられなかった。
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