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粘液が絡み合う音と、黒瀬の情けない喘ぎ声が相まったみそ萩の2階は濃い桃色に帯びていた。一度果ててしまった黒瀬の欲を連れ戻そうと、隣に寝そべってペニスを扱く橘は黒瀬の胸部に舌を這わせている。時折こちらを見上げながら愛撫を続けるみそ萩の店主は言う。
「どう?元気になった?」
彼女の唾と愛液でコーティングされたペニスは、オイルを差したばかりの機械のようだった。液体を与え続ければいずれ再起動する。車もバイクも、人間も同じなのかもしれない。黒瀬は一度冷静になった際に浮かばせた疑問を投げかけた。
「あの、涼子さん。何故俺だったんですか。」
不思議そうな目でこちらを見る。瞳の色ががらりと変わった。厨房に立っていた女将の目だ。
「幸太朗くんが若いからよ。女って若い男に求められると嬉しいものなの、それは歳を取ると尚更。若者の体液を啜ると自分が若返ったように思えるんだ。」
そう言って橘は自らの秘部に手を伸ばした。膣口からどろっと溢れ出す黒瀬の分身を指先で掬い取って舌先に宛てがう。
「うん、苦い。青臭くて苦味があって、喉にへばりつくようなこの味。」
未だじっとりと汗ばみ続ける2人は再び体を重ねた。彼女の言葉にしっかりと芯を取り戻した黒瀬のペニスを、ゆっくりと飲み込んでいく。敷布団の上で寝そべった黒瀬の上に跨って赤黒い柘榴を見せつける橘は垂れた乳房を自ら手で支え、やがて腰同士が密着した。あの電撃が再び全身を駆け巡る。彼女の重みで身動きが取れないものの、踊ってしまいそうなほど快楽が降り注いだ。人はセックスに夢中になると他の事など何も気にならないようだった。夜にも関わらず20℃後半を記録する熱帯夜、毛穴から噴き出す汗の集い、一軒家の隙間から差し込む月明かり。しかし今そう考えているのは自分だけなのだろうと黒瀬は思った。それは彼女の目である。
さっとレンズを差し替えたように、橘の目がどろりとした色に変わる。男を喰らう妖怪のように見えた。彼女のアイアンメイデンは非常に狭く、ぎゅっとペニスを締め付けている。ふと目線を上げた時に見たあの赤い行燈は自分を誘い込む罠だったのだろうか。そんな曖昧な恐ろしささえ感じるほど橘涼子という女性は完成されていた。
人間は日を追う毎に地面へ近づいていく生き物だ。腰が曲がって、肌が垂れて、見上げることすら苦になってくるのだろう。しかし稲穂が実る程に頭を下げていくように、女性の体というものも豊かになればなるほど重力に負けていく。薄い肉がついて乳房や尻がだらしなく下がった時に、柘榴は満開に咲き誇るのだ。
「涼子さん、気持ちいいです。」
まるで黒瀬の体を使って激しい自慰行為を行っているような彼女は、束ねていた黒髪を解いてパスタのように広げた。2人の姿が1階へと続く階段に影を伸ばし、みっともない水の音が響き渡る。橘は何も言わずただがむしゃらに喘いでいた。
「あっ、いやぁ…ダメぇ…。」
まるでペニスを捻り切るかのようにグラインドさせる橘は汗を散らして、本当に男の体液を貪る妖怪のようだった。
「また、いきそうです…。」
「私もっ、一緒にいこう?」
ぐんと上半身を傾け、2人は新たな命を作り出すかのように唇を重ねた。お互いが口の中で声にならない声を発し、今夜最後の絶頂を迎えた。
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