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「忘れ物はない?」 カウンター席の前で橘は言った。ショーツは2階の敷布団に置かれたままで、下着を身につけていないと分かってから拝む彼女の浴衣姿は、どこか特別に見えた。渋谷で購入した紙袋を持って頷く。 「涼子さん、最高の誕生日プレゼントでした。」 ひとしきり汗をかいて体中の熱を放出した黒瀬は、どこかしがらみから吹っ切れたように言った。またこの店に訪れたら彼女と体を重ね合うことができるのだろうか。少しだけ薄暗い未来に火が宿る。 障子を開けて彼女に頭を下げた。数時間前まで恐る恐る踏みしめていた石の板を、今度はしっかりと踏んでいく。細い路地から抜けて住宅街に戻る。ふと振り返ると、彼女は暖簾を下げていた。こちらに大きな尻を向けて行燈を消そうとする彼女の浴衣は、下に何も穿いていない。それがひどくいやらしかった。 背を伸ばしてこちらを振り向いて、会釈する。黒瀬は微笑みを押し殺しながら頭を下げて住宅街へと繰り出した。 どことなくひんやりとした夜風に当たりながら、家路を急ぐ。もうすぐ誕生日が終わる。渋谷のカフェで夕飯を迷っていた自分が嘘のようだ。 どうやら酔いが少し覚めているようだった。コンビニで酒を買い込み、橘涼子を思い返しながら飲もう。気が付けば黒瀬はスキップを始めていた。
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