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(ラーメン…いや、すぐ終わっちゃうな。) 時刻は夕方の6時半を回っていた。カフェの2階に席を取り、喫煙席で携帯の画面を眺める。水滴が纏わり付いたアイスコーヒーを一口啜って検索エンジンを立ち上げた。 『渋谷 周辺 ディナー』と打ってインターネットの海に網を放る。しかし1人で過ごす夜としては不完全なものばかりだった。 余分に金はある。今の黒瀬にとってそれらを発散するしか誕生日というイベントをやり過ごす手立てはない。夕飯に全額を注ぎ込もうと考えていた黒瀬の目の前に情報の壁が立ち塞がる。 黒瀬は原点に立ち返ることにした。都会がダメなら今住む街周辺はどうだろう。黒瀬が住む東京都北区はいかにも下町といった雰囲気を醸し出している。無論赤羽駅が名を馳せているが、黒瀬は大学の関係で浮間二丁目のマンションに住んでいた。板橋区に近い街並みはチェーン店ばかりだが、黒瀬が注目していたのはまったく違う。 それは、地元に根付く居酒屋だ。 酒が好きな父親に連れられ、幼少期の頃から居酒屋には通い慣れていた。店主や常連客に持て囃され、酒が進む父の隣で頬張った焼き鳥の味を、黒瀬は今も覚えている。あれは確か心臓、ハツだった。 誰でも立ち寄ることができ、アルコールで上機嫌となってその街周辺の情報が手に入る。3年間浮間に住んでまだ未開拓の居酒屋は星の数ほどあった。歩き慣れたはずの道にすら、誰かの家だと思っていた店がある。そうなるとインターネットの網にはかからない小魚だっているはずだ。残ったアイスコーヒーを全て飲み干して立ち上がった。量こそ少ないが脂の乗った小魚を頬張ろう。黒瀬は第二の実家を思い浮かべながら外に出た。
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