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7
対岸のカウンターに向かってトイレ脇にある階段を、先に橘が上がっていく。かなり傾斜があるために嫌でも彼女の尻が目に入った。暴力と性を2つとも体現しているかのように大きな西瓜が左右に揺れる。じっとりと汗ばむ感覚からすると、今もなお20℃後半を記録しているのだろうか。汗をかいて会ったばかりの女将と、彼女の自宅に上がる。誕生日に経験するイベントとしてはあまりにも破壊力が強かった。
「ごめんね、だいぶ狭いんだけど。」
まるでアパートの一室に見えた。濃い茶色の箪笥や化粧台、目を引いたのは部屋の中央を陣取る敷布団である。開け放たれた窓から差し込む月明かりで青白く見えた。窓の向こうには黒瀬が恐る恐る踏みしめた石の板がある。
「幸太朗くん、誕生日プレゼントはあの而今だけ?」
1時間ほど前に対岸にいた男性から頂いた酒を思い出す。黒瀬は辿々しく言った。
「あとは、自分へのプレゼントとして買った服、くらいですね。」
そっか、と言って橘はゆっくりと窓の方へと歩を進めた。ゆっくりと窓を閉めて、くぐもったガラスに月明かりが少し遮断される。それでも橘はしっかりと見えた。
「私からのプレゼント、欲しい?」
鬱陶しいはずの汗すら消えてくれるなと感じてしまうほど、みそ萩の2階が愛おしく思えた。今隕石が世界を滅ぼしてもこの部屋だけは無くならないでほしい。黒瀬は音を立てて唾を飲み込んで頷いた。
「それじゃ、しっかり見て。」
背を丸めて浴衣の裾を手に取り、橘は背筋を正すと同時に花柄を捲った。白く熟れた肉の足。青白い月明かりでより色濃く見えてしまう。薄い肉に埋もれたベージュのショーツの面積はひどく狭い。2本の白い柱には一切の隙間がなく、肉眼でもしっとりと汗をかいているのが分かった。
「もう39歳だし、おばさんだけど。疼いちゃうの。」
ひどく魅力的な彼女の玄関を潜り抜けた先にあるリビングは、眩いほどのピンクを放つ内装だったということだ。カーキのハーフパンツの裏で黒瀬のペニスはしっかりと硬くなっている。酔いと相まって黒瀬は積極的になった。
「もっと、涼子さんのお家を知りたいです。」
「いいよ。汗ばんでるけど。」
まるで砂漠を放浪した後にようやく見つけた湖へ向かうように、黒瀬は両手を伸ばして彼女の足元に跪いた。近くで見るとより滑らかな肌をしていると理解できた。牛乳をゼラチンで固めたような白く柔い肌、その上を透明な汗が伝っている。これが未亡人の肌なのか。数ヶ月前に別れた女性とは違った体表。口を開けて舌を出した自分は犬のようだと思ったが、止まることはなかった。
汗の1つ1つを舐め取っていく。ほんの少しだけ潮の味がした。女性の秘部から放たれる香り高い海、彼女の太ももに手を置くと、橘は裾から手を離した。橘の浴衣の中に黒瀬が収まる。不思議な感覚だった。赤い花弁が映し出された浴衣の中で潮の味を舐める。森の中に海があるということだ。そういった不可思議な世界すら簡単に創り出してしまう未亡人、舌先が内腿へ触れる度、橘は喉の奥から絞り出すように喘いでいた。
いくら舐めたところで湧き出し続ける彼女の汗が、鼻筋に流れる黒瀬の汗と混ざり合う。白い無地のTシャツはすっかり汗ばんでいた。
「幸太朗くん、上も舐めて…。」
自分が酒に酔っているのか、彼女に酔っているのか、まるで分からなかった。橘のショーツは先端を湿らせて重くなっているようで、鼻先を近付けるとより潮の香りが濃くなった。その奥で薄い尿の臭いがつんと香る。橘涼子自身のフレグランスは人生のピークを思わせるほどの匂いだった。これ以上嗅いでしまえばこの先の人生に訪れるあらゆる香りが無駄に思えてしまう。それでもかぶりつきたいと思わせるのだから、彼女の秘部は罠のようなものだった。
薄いクロッチを横にずらすと、蓋が開いたように香りが濃厚になる。むわっとした橘涼子の香水は赤黒い花弁と束になった陰毛、それら全てから放出されていて、広すぎる世界がここに詰まっているようだった。滑らかなガラスを思わせる橘の玄関から奥へと進み、ピンクのリビングを抜けた先には柘榴の花が咲き誇る森と海が広がっている、ゆっくりと顔を埋めると体中が痺れるような感覚に陥った。
「あっ…すごくいい…。」
熟れた丸い陰核、充血した小陰唇、粘液に覆われた膣口、針金のようにあちこちへ畝る陰毛、アダルトビデオが隠すモザイクの先に広がる景色は壮大だった。
鼻の頭でクリトリスを撫で回し、愛液が溢れ出る膣口に舌先を充てがう。橘は全身を左右に揺らして喘いでいた。固定するように腿の裏に手を回し、橘を啜る。数時間のように思えた愛撫は彼女の高い声で終わりを告げた。
「幸太朗くん、退いて。」
黒瀬の頭に手を置いて外へ逃がす。慌てて浴衣から這い出ると、橘は浴衣を大袈裟に捲って腰を前に突き出した。途切れるような声で小さく痙攣する。薄い尿が迸ったのはすぐのことだった。
「もう…幸太朗くんが激しいから、出ちゃったじゃない…。」
手の甲を口元で隠し、ぐんと眉尻を下げた彼女は天井を仰いで深い息を吐いていた。女性が絶頂を迎える瞬間など画面越しで幾度となく見てきたにも関わらず、何故橘だけは違って見えるのか、黒瀬は理解できずにいた。しかしその答えは自分が立てたテントが示している。彼女は黒瀬の目だけを見てショーツを剥いでいった。浴衣の隙間から深い乳房の線が見える。あの谷底に落ちて死んでも構わないと願う男性は、この世界に腐るほどいるだろう。
「お願い、来て。」
封を切ったように浴衣をはだけさせた橘の全身を見て、黒瀬は再び頷くことしかできなかった。
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