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「妖精はいるんだ。ほんとうに。
僕が最終目的にしているのも、妖精の村だよ。
でも、僕がこの虹の市に用があったのは事実だよ。僕はここで育ったんだ」
「育ったとは?」
「うん。僕は少女たちに体を不自由にされたから、そのときから何事も受け身になったんだ。そうするしかないからね。
僕は覇気を失ったのかなぁ、弱った人間は食われちゃうのかな。僕は男の人からも、同級の男子からも、性的な目で見られるようになったんだ。
それで、親が僕を開運寺に連れてきて、祈祷をした。
へんなものが憑いたんじゃないかって。
すると、そこの僧侶が僕を引き取るといった。そうすれば、あなた方にもう一度、男の子が授かる、と」
航さんは続けます。
「僕はつなぎと離れるのが嫌だったから、何度も逃げ出したけど、すぐに寺に戻された。そのうちに、つなぎが父との関係を悪化させて、母がここに連れて来た。
人間、一度できてしまうことは二度できるんだ。かんたんにね。
母にとって、要らない兄と妹だった。だから、寺でどのように使われているか知っていても平気だったんだね。
母は男としてもうダメな僕とつなぎのことを寺に奉納して別の子どもを作った。
だから僕はつなぎのおむつを三か月だけ、替えてない。
離れていた期間だけ、替えていなかったんだ。その間は父が替えていたみたいだ」
私は黙っていました。でも、航さんのことを見ています。
「あなたを殺そうとは思ってない。
ちなみに、勘違いしているけど、”子ども”を埋めると言っても、何も年齢のことじゃないよ。自分の子ども、つまり、70代の女性の子どもが50代だとしたら、50代の人間でも、”子ども”なんだよ。いくつでも、子どもは子どもなんだよ」
私はつなぎさんに目を移しました。
眠っています。
姿は眠っているけれども、意識まで眠っているかは分かりませんでした。
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