真人の朝の日常

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真人の朝の日常

 翌日は六時に起きた。いつもより一時間早い。  パジャマのまま洗濯籠を持って外に出て、山盛りになった三人分の服と下着、タオル類を二槽式の洗濯機に放り込む。洗剤を投入し、スタートボタンを押したらすぐに部屋に戻って、自分と妻の分の朝食と、智の離乳食を準備をする。  雪平鍋に水を適当に張って、ほんだしを入れ、火にかける。それが沸騰する間に、ネギと豆腐を切って、テーブルの上を台ふきんで拭いていたら、寝室から智の泣き声が聞こえてきた。一旦コンロの火を止めて、真人は智の様子を見に行く。と、智が布団から起き上がって、お座りをしたところだった。 「あ、智、起きたんだ。お腹すいた?」  手を振りながら声をかけると、智がニパっと笑って四つん這いになった。そのままハイハイで真人に突進してくる。  すっかり「つなぎ」の動作が上手になった。成長したなあ、と嬉しくなりながら、真人は屈み込んで息子を受け止めた。片腕で抱き上げて(だいぶ厳しくなってきたが)、一緒に台所に向かう。  ベビーチェアに智を載せようとすると、いきなり脚をばたつかせて抵抗してくる。 「え? 座りたくない?」  聞くまでもないか。智がしかめっ面になって、背中を反らせた。 「わかったわかった」  ため息を吐き、智を縦抱きにしたままおんぶ紐を探す。ざっと居間を見渡しても視界に入らないので、玄関まで歩く。と、上がり框に目当ての物があった。昨日帰宅したときに外して、そのまま置きっぱなしになっていたのだ。 「ちょっと座って待ってて」  息子を床に置いてお座りさせようとしたときだ。彼のお尻がだいぶ膨らんでいることに気がつく。おんぶをする前に、おむつの交換だ。  ――今日子、昨日の夜に取り替えなかったのかな。  夜の寝かしつけとおむつ替えは、彼女の役目なのに。 「疲れてるのは分かるけど」  ぼやいてしまいながら、真人は智を抱き上げて、寝室に向かった。すぐにおむつを替えてやり、若干機嫌が良くなった息子をおんぶ紐で背負って、台所に戻った。もう一度鍋に火をかけて、切っておいたネギと豆腐を入れた。 「ええと、あとは……」  独りごちながら、頭の中を整理する。冷蔵庫にある鮭をグリルで焼いて、レタスとミニトマトを洗って、ご飯が炊きあがったら、その一部を五倍粥にする。 「――って、まだ炊けてない」  炊飯器から湯気は上がっているが、まだ炊きあがるまでに時間がかかる。  当たり前だ。タイマーを六時半にしている。 「お前、早く起きすぎだよー」  智のお尻を軽く叩きながら、真人は粉ミルクの缶を戸棚から取り出した。一回分の分量を哺乳瓶に入れて、ポットで三分の二の量の熱湯を注ぐ。哺乳瓶にタオルを巻いて小刻みに振り、ある程度溶けたら、残りの熱湯を注いでまた哺乳瓶を振る。やり慣れているが、やっぱり面倒臭い。なんで二回に分けないといけないんだろう、とか思う。  ボウルに水を張って、そこに哺乳瓶を入れて、ミルクの温度を下げる。これも手間だ。直に水を入れて調整したくなる。  ――母乳だったら楽なのになあ。  なんて、思ってしまう。  今日子が智に母乳をあげていたのは、出産した直後から、仕事復帰するまでの半年間だけだった。その後はほとんど、真人が粉ミルクを作って智に飲ませている。  ミルクの温度を下げている間に、鮭を焼いて、野菜を水で流す。レタスをちぎっていると、今度は外から洗濯機の通知音が聞こえてくる。洗い濯ぎまで終わったサインだ。あとは脱水が残っている。 「あーもう!」  つい愚痴っぽい叫びが口から出た。  やることがどんどん増えて、思い通りに事が進まない。毎回そうだ。苛々する。  ちらりと寝室を見る。まだ今日子が起きてくる気配はない。  真人は玄関まで走って外に出て、濡れた衣類を脱水槽に移した。いい加減、二槽式から全自動に買い替えたい。自分の稼ぎが上がったら――そんなことを考えながら、額に浮いた汗をパジャマの袖で拭った。
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