エピローグ

2/12
92人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「晴人おは……っ、な、何してるの、これ」 起き抜けの眠そうな顔をした父さんが、ギョッとした表情で固まった。 いや、言い訳するわけじゃないけど、昔は結構上手く出来てたんだよ。めっきりご無沙汰だから、コツがさ。忘れたと言うか…… 「いやあ、たまには自分で弁当作ろうかなって……ははは」 キッチンの調理台の上には、失敗した卵焼きもどき(・・・)が約10個。卵の殻は、もちろんその倍。昨日こっそり買ってこなけりゃ、卵無くなるところだったわ。 「卵焼き……弁当?」 「まあ、そんな感じ」 「だからこの前渚ちゃんが来たとき、味付け訊いてたのか。前まで全然食べなかったから、嫌いなのかと思ったよ」 ふっと顔を綻ばせて、父さんがキッチンで手を洗いだす。 「いや、渚の卵焼きは、母さんのと似てるからさ、ちょっと辛くて食べらんなかったというか……」 渚が結婚して三ヶ月。 旦那を連れてこの家に訪ねて来たのが二週間前。俺たちの生い立ちを渚がどこまで話しているのかは分からないけど、渚が選んだ人なだけあって、俺の心配が杞憂に終わる気がした。 穏やかで、おおらかで、よく笑うその人は、渚より十も歳上なのに、俺と高校生活のバカ話で盛り上がってくれる素敵な大人だった。 俺の父さんも、渚の旦那さんも。 目標に出来る大人の男が周りに二人もいるなんて、贅沢だと思えた。 「どうしたの? にやにやして」 「にやにやしてねーって」 苦笑しながら、卵を再びボールに割り入れる。菜箸で卵を撹拌していると、父さんが卵焼き用のフライパンをコンロにかけた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!