家庭科準備室の匂い

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真っ黒な顎ラインの髪に、パッツリ切りそろえられた前髪。大きな丸い眼鏡の下、雪みたいに青白い顔の女子が入り口で立っていた。 「あー……すんません、勝手に入っちゃって」 地味な女子。学年が分からないから、とりあえず敬語で様子見。 入り口で呆然と立ち竦む女子は、俺の声に大袈裟にビクリと震えた。ハムスターみたい。 「あ、見られちゃったあ。ごめんなさーい。すぐに移動するんで」 彩奈が得意の愛想笑いで返した。 「お、お構いなくっ」 幽霊みたいに真っ白な頬が、みるみる色づく。りんごみたいに。 「もしかして家庭科部?」 懐っこい鼻にかかった声で、彩奈が可愛らしく首を傾げる。こくり。彼女は無言で頷いて、ずり落ちそうな眼鏡のフレームをくいっと直す。 「わ、忘れ物をっ!」 目にも止まらぬ速さとは、このことを言うのかもしれない。入り口に佇んでいた彼女は、絞りたてのレモンを口に含んだような顔をして、俺たちの右隣に置かれたワゴンまで一直線に駆け寄る。 まるで俺たちを視界に入れたくないかのように、顔を背けたまま、ものの数秒でワゴンの中から紙の束を引っ張り出し、逃げるように走り去った。 「あれ……二年だったねー、愛想悪いー」 彩奈が小馬鹿にしたようにカラカラと笑い声をあげる。 「なんで分かったん?」 「リボンのね、ラインの色が違うんだよ。あたしのは赤でしょ? さっきの子は白。晴のネクタイだって同じラインが入ってるじゃん 」 「俺ネクタイしないから分かんないわ」 「ネクタイしなくても晴はカッコいいもん」 甘い声音に変わって、彩奈が甘えるように首元に鼻をこすりつけてくる。 「何。ご機嫌じゃん」 「えー、初めて晴とキスしてるとこ誰かに見られたから、嬉しくって」 「変な趣味」 「だってあたし達が付き合ってるの、皆んなに内緒にしてるじゃん」 「は?」 え、どういうこと?
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