エピローグ

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微睡みの中に、無味乾燥な聴き覚えのある声が落ちてきて、慌てて布団から顔を出す。 「え、」 出した顔面めがけて赤い何かがこつんと落とされた。 「いてっ」 わけがわからず、顔の上に乗っかる物体を掴む。軽いけど硬い。なんだこれ? そのまま上体を起こして、ようやく手の中にあるものの正体に気付く。 「あれ、ランチ……バッグ?」 俺が廉次に託したものとは別の、こじんまりとした赤色の手提げバッグに、一段のシンプルな黄色いチェックの弁当箱が見えていた。 驚いて顔を上げた先で、小さくて白うさぎみたいな神崎つゆりが、ふう、とため息を吐き出した。 「私がいつ、お腹を壊すほど卵焼きを作ってくれと言いましたか」 約一ヶ月ぶりに間近で見る神崎さんは、お決まりの素っ気無い顔を、ほんの少しだけ顰めていた。 「心配してくれた?」 どうせ、すげなくあしらわれると分かっていても、考えも無しにこういう事を言ってしまうのが、避けられる原因かなのかもしれないな。そう、思っていたのに──── 「ええ。心配しました」 「だよな……え? あれ、今なんて、言った?」 予想もしていなかった言葉に、掴んでいた弁当箱がガチャンと音を立てる。
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