エピローグ

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「私のために作っていただいた卵焼きのせいで、お腹を壊したと黒川先輩から聴いて……呆れを通り越して心配した、と言ったのです」 そこまで淡々と喋った直後、ベッド脇で佇んでいた神崎さんの顔が、くしゃりと歪んだ。 俺が拉致したあの時みたいに、今にも泣きだしそうな顔だった。 「え、え、ちょい、どした?」 俺は、女心を理解するのが本当に下手で、情けないくらい鈍感だけど。 「私のためにっ……そんな事までしなくてもいいです」 神崎さんの頬を伝って零れる涙を見つめながら、これは違うんだって、分かる。 これは嫌われているわけじゃないんだと、ちゃんと分かる。 「したいから、してるんだって」 「私はっ、こういうのが、すごく苦手で」 なぜ神崎さんが、泣くのか。 何となく俺なら解ってやれる気がした。 それは、俺が全部を諦めた時、学習した思いと同じ。 「もういいから、分かってるから」 手を伸ばして、神崎さんの頭を子どもをあやすように、くしゃくしゃと撫でた。 苦手なんだよな。 俺たちは。 優しくされることが。
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