神崎つゆりとの接触

3/5
前へ
/110ページ
次へ
俺がバスケ部を辞めた理由なんて、正直覚えていない。むしゃくしゃしてとか、癪に障ってとか。そんな短絡的で感情まかせの理由だった。 進路相談会で学校に来た父さんのせいだったような気もする。 「二年E組って言えば特進クラスじゃん、賢いな神崎さん」 家庭科準備室に現れた地味で暗そうな女の子でも、それなりに夢とか希望とか青春を謳歌する準備はあるのか、と笑えてくる。 手にした一枚の紙は、少し厚めの紙をポストカードサイズに切ったもののようだった。 手描きのイラストと一緒に、料理のレシピとメッセージが、綺麗な文字で書かれている。 「こんにちわー」 二年E組の入り口で談笑している男子二人組に声をかける。どちらも眼鏡をかけていて、いかにも頭が良いことを誇示しているようにも思える。 「どうも」 誰だこいつ。そう顔には出さないけれど、腹の中では思っていそうなほど、下手な笑顔だった。 返事をした方じゃない、見るからに気の弱そうな小柄の男子の肩を叩く。 「ねえ、このクラスにさ、神崎さんって子いるよな?」 「あ、はい。あそこ、窓から二列目の真ん中に座ってるのが神崎です」 意外なことに、気の弱そうで背が低くて、癖毛のその男子は、物怖じするどころか溌剌とした声で答えた。 「ふーん」 「呼びましょうか?」 「いや、いいや。俺が行くよ」 「え?」 なんか苛々する。 こいつらはお気楽で楽しい日々を送ってんのか。ぶち壊してやろうかな、とか。 やっぱ俺、病んでるな。 笑える。 自嘲気味に鼻で笑い、二年E組の中へと足を進めた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加