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「私も知らなかったんですよ。探りを入れてようやく白状させたところです。つゆちゃんはひねくれ者ですからね、自分の本当の気持ちは全部隠してしまう少々面倒な子でして……というわけで。あとは煮るなり焼くなり、はるぽん先輩にお任せします。これでつゆちゃんの昔話はおしまいです」
パチン。西園寺さんの両手が合わさって、留まっていた空気が動き出したようだった。
大袈裟に首を傾げ微笑む西園寺さんの肩をガシッと掴む。
「教えてくれて助かった。お礼はするから」
幼い頃の過去と同じように、危うく忘れるところだった。
危うく誤解したままで終わるところだった。
だけど。
「部員の幸せと夢への後押しは部長の役目ですから」
こっちには恵比寿様がいたんだ、と。
うふふと笑う西園寺さんの神々しい笑顔に、思わず吹き出した。
「はは、笑える。俺の周りはなんでこんな、変わり者ばっかりなんだろうな」
「ふふ。類は友を呼ぶってやつですよ」
「言えてる。俺が一番変だもんな」
背中の痛みはほんの少し。
授業開始まであと数分。
恵比寿様の後押しは申し分無い。
神崎つゆりの性格は痛いくらい知ってる。
あとは。
動くか、動かないか。
「じゃあ、煮るなり焼くなり、させて貰おうかな」
「なんとっ! どうするおつもりですか? 西園寺麗子、わっくわくしてきましたよ!」
「どうするも何も、別にどうもしないって。神崎さんと話したいだけ」
「恋バナですか!?」
「ないしょ」
「あひゃー!!」
まぁ、動くに決まってるけど。
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