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スマホをポケットから取り出し、同じクラスの柊にメッセージを送る。
『名誉の負傷につき1時間目休む。上手く誤魔化しといて。よろしく』
すぐに既読がつき返事が来る。
『恵比寿様とよろしくやってんの?』
『ちげーわ。ばーか』
レスポンスの早さと、ふざけた内容は相変わらずだけど。
『うそうそ。こっちは任せとけ。あと、なんかしらねーけど、とにかく頑張れ』
こと、人の心の機微を読むことに関しては、柊が一番長けているんじゃないかと、はじめて実感していた。
『頑張るわ。サンキュー』
スマホをポケットに押し込み、保健室の入り口に向かう。授業開始まで10分足らずかと、室内の時計を一瞥すると、背後から西園寺さんに呼び止められた。「あのっ」
「なに?」
「はるぽん先輩、つゆちゃんは」
西園寺さんが何を言おうとしているのか、先程の神崎さんの様子を考えると想像がついた。
「知ってる。教室だろ? くそ真面目だもんな、神崎さん」
彼女の性格からして、たとえ何があろうとも、授業をサボるなんて短絡的なことをするわけがない。
俺の答えに、西園寺さんは満足そうに、にたりと口の端を吊り上げた。
「ぐふふ、つゆちゃんの性格からして、きっと逃げますねぇ」
「あ、やっぱり? じゃあ逃げらんないようにしねぇとなあ」
「あぁ、もし許されるなら、こっそりビデオカメラを回して密着したいのですが」
「それは勘弁して!」
笑いながら保健室の廊下に出ると、授業前とあってか歩いている生徒は僅かだった。
「あ、そういえば西園寺さん。神崎さんって、今は、その……嫌がらせとかって」
「つゆちゃんは特進クラスに進級したので、ほとんどありませんよ。たまに陰口を言われることもあるみたいですけど、今は信頼できるお友達も出来たようですし、私たち家庭科部もつゆちゃんの味方ですから」
「そっか、良かった……」
「では、私はここで。面倒な子ですが末長く宜しくお願いしますね」
「なんか西園寺さんが言うと、ニュアンスが違う意味に聴こえるんだけど……うん。とりあえず、行ってくるわ」
苦笑しながら手をあげると、旅館の女将よろしく西園寺さんが仰々しく頭を下げた。
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