ソルティドロップ

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「前の時の俺、死んでんのと同じくらい、何も考えて無かった最低人間だからさ。それでも、そっちのがいい?」 「え、と……それは」 返答に困ったのか、目を泳がせる女の子の姿に苦笑する。 「ごめん、ちょっと嫌な言い方だったよな。ただ、これは俺の決意表明というか。今まで散々人を傷つけることしてきたからさ、信頼取り戻せるように、とりあえず見た目から変えてみた。いくら口で言っても、心の中までは見せることが出来ないだろ? だから、ちゃんと目に見えるように、伝える努力していこうかなって。若ちゃんにも伝えといて、今度試合観に行くって」 俺の言葉を受けて、女の子の顔がぱあっと明るくなる。 「わ、分かりました! 若宮、霧山先輩のこと、すっごく大好きみたいなので、伝えたらきっと大喜びですよ!」 「うん、宜しく。なんか伝言役に使ってごめんな」 「いえ! 光栄です!」 きっと。信頼を取り戻すのは簡単なことじゃないけど、少しずつ、散らばった欠片を拾い集めるように。この想いを繋ぎ合わせていけたら…… 「じゃーな」 手を挙げると、ぺこりとお辞儀をしてクラスに戻っていく女の子の背を見送ってから、息を軽く吐きだした。 時間が無いから、ちょっと強引にいくしかないな。 「こんちわー」 目の前のE組の入り口に足を踏み入れる。 俺の声に視線が集まり、一斉にクラス内が騒つき始める。 声が飛び交う教室内に足を踏み出し、そのほぼ中央、眼鏡をかけた神崎つゆりの姿を捕らえた俺は迷うことなく一直線に進む。 なにが起きたのか分からないといった表情で、ぽかんと口を開けていた神崎さんが、接近する俺に瞠目して、小さな身体をのけ反らせる。 「な、ななっ、なんっ」 何か言いたいらしいけど、動揺しているのかさっぱり言葉になっていない。正直予鈴が鳴るまであと1分くらい。だから悠長にここで話してる場合じゃない──── 「捕まえた」 神崎さんの手をぎゅっと握り、無理やり椅子から引き剥がす。 「はぁっ!? ちょっ、なにをっ!」 「話があるから、ちょっと」 「わ、わ、私はっ、話なんて!」 「すいませーん! 神崎つゆりさんをお借りしまーす! 文句ある奴、今すぐ挙手しろ!」 俺の言葉に教室内が一瞬で水を打った様に静まり返る。 「霧山先輩! なにを!」 「ほら、誰も文句無いってさ」 言いつつ、神崎さんの手を引いて教室の入り口に向かう。
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