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「困りますっ!」
俺の手を振り解こうと、必死に抵抗する神崎さんの手をきつく握りしめる。
「なんで?」
神崎さんが複雑な表情で俺を睨みつけた。
「3メートル以内に近づいて欲しくないからです! それに、私は破廉恥な人が大嫌いなんですよっ! さっきだって部長と……」
強い口調から一転、語尾が小さく消えそうになり、やはり西園寺さんとのことを完璧に誤解しているのだと分かる。
鋭く向けられる瞳も。
大嫌いだと言われる言葉も。
その裏側には、彼女の不器用な優しさが隠れているのだと知ったからには──── 今逃すわけにはいかない。
「それ、誤解だから。あと先に3メートル以内に近づいたのは、神崎さんだからな」
握っていた手を離す。腰を落とし、神崎さんの体を担ぐように持ち上げる。途端に教室内に黄色い悲鳴が湧き上がる。
「うぎゃあああ!! 何をしてるんですかっ!!」
「んー面倒くさいから、拉致る」
「ど阿呆ですかっ!!」
「え、お姫様抱っこの方がいいって?」
「そんなこと言ってません! 絶対お断りですよっ!!」
「じゃあ、ちょっといい子にしてて」
よいしょ、と神崎さんを担ぎ直し、足早に教室を出る。背後では悲鳴に似た声が飛び交っていた。こりゃ後で先生に呼び出し食らうだろうな。ま、今はどうでもいいけど。
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