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宮島によるとこうだ。昨日、授業の合間にスマートフォンを見ると、公衆電話からの着信が五件ほど入っていた。メッセージが残っており、再生すると、
『私メリーさん。今新宿にいるの』
『私メリーさん。今上井草にいるの』
『私メリーさん。今関町北にいるの』
『私メリーさん。今校門にいるの』
『私メリーさん。今昇降口にいるの』
と言うものだったらしい。
後で聞いたところによると、宮島にとって「遠い所」というのが新宿などの都会らしい。そこから電車に乗ってやってくる、というイメージだったのだろう。そのため、「電車でごとごと揺られながらやってくるメリーさん」という、人によっては拍子抜けする怪異になってしまったようだ。メリーさんが口にした地名は、いずれも駅がある。
宮島が驚いてクラスの友達に話すと、聞いた児童が怯えて取り乱し、パニックが広がった。それを岡田が見つけて、宮島のスマートフォン持ち込みが発覚した、ということらしい。宮島は平謝りしながらも、岡田に得体の知れない留守電について訴えた。
「こんなの悪戯だから相手にしちゃいけません」
岡田がそう言った瞬間、スマートフォンが鳴った。発信元は「公衆電話」。
「出たら駄目ですよ」
岡田が鋭く告げる。宮島はおろおろした。その間に話を聞いていた別の児童たちも怖がって集まる。やがて、留守番電話に切り替わった。
『ただいま、電話に出ることができません。発信音の後に、メッセージをどうぞ』
ピー……。
『私メリーさん。今あなたの後ろにいるの』
教室が悲鳴の渦に巻き込まれた。
「結局、宮島さんの背後には何もいなかったんですが、児童はパニックで授業は中断。他の先生に応援を頼んで皆には落ち着いてもらったんです」
「ごめんなさい」
「過ぎたことなのでもう良いですよ。でもスマートフォンは駄目です」
「だってママが」
「あとでお話ししましょう」
「はぁい……」
宮島は口をつぐんだ。
「聞いても良いかな?」
微妙な空気が漂う応接室の沈黙を破ったのはメグだった。可愛い高校生くらいのお姉さん、というのは、小学生の警戒心を解くらしい。
「なんですか?」
「その時、メリーさんはあなたの後ろにはいなかったんだよね?」
「はい」
「その後異変は?」
「ないです」
「うーん」
メグは首を傾げた。
「あなたが聞いたメリーさんの噂、最後はどうなるの?」
「最後って……『あなたの後ろにいるの』で終わりですけど」
「そうだよね」
「……私、何かまずいことをしちゃったんですか?」
決定的なことを言わないメグに、宮島は不安そうだった。
「してないと思うよ。ねえ、他の友達もメリーさんの噂は知ってるの?」
「はい……」
「その友達が知ってるラストもそこで終わりなのかな?」
「あー……」
宮島は中空を見た。
「えーと、ともちゃん……友達は死ぬほど追い掛けられるって言ってました」
ルイはナツの顔を見た。ナツは頷くと、小声で、
「『消極的な信仰』だね」
副校長に向き直り、
「あの、明日以降で構わないんですが、生徒さんたちに協力してほしいんです。お願いしても良いでしょうか?」
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