12人が本棚に入れています
本棚に追加
帰りの運転はアサがした。ナツは助手席であくびをしている。
「いやぁ、お疲れさん。上手く行って良かったよ」
あの後、ルイが早鐘の様に心臓が打つ胸を押さえていると、メリーさんの残骸はそのまま消滅した。メグがメリーさんの消滅を確認、宣言して、今回の「メリーさんの電話」事件は終了となった。
「怪異も質量保存の法則に則っているのか……」
という、どうでも良いようなことが口から突いて出る。
「室長、大丈夫ですか?」
アサが気遣わしげに声を掛けた。ルイは顔を上げると、夕陽を受けて出来た陰影の浮かぶ端正な顔にしばらくみとれてから、
「う、うん。大丈夫! ありがと」
職員室の副校長たちに報告を済ませて、帰路に就いた、と言うわけである。怪異との戦い、という事で、もっと激しい格闘の名残を予想していたのだろうが、あまりにも何もないため拍子抜けしたようだった。
「もし、また何かありましたら、またお電話いただければ」
「あっ……はい、わかりました……ありがとうございます……」
という、なんともドラマ性のない挨拶をして4人は小学校を後にした。
「室長」
アサがハンドルを握りながら呼びかける。ルイは顔を上げた。バックミラーに、優しく笑むアサの目元が映っている。
「何?」
「ありがとうございます。俺たちに理解を示してくれていること、感謝します」
「何だよ改まって!」
「いや、ほんとえらいよ室長……警視。キャリアの警視がこんな訳のわからない部署に配属されて、二件目で順応しようってほんとすごいことだと思う。都市伝説対策室って何って思わない?」
ナツがそんなことをぺらぺらと言う。ルイは目を剥いた。
「自分の部署でしょ!? ていうか今は僕の部署でもあるんですからね!?」
「あんた良い死に方する」
「今から死に方の話しないでくれる!?」
「ごめんごめん。まあ徳積んでるよ」
「来世で良いことあるよ」
後部座席の隣で、メグが片目をつぶって見せた。ルイは肩を竦めて、
「その前に今世で良いことが起こって欲しいな」
「はは、違いないね」
アサの運転する車は、警視庁までの帰り道をまっすぐに辿る。
その後ろで、夕陽が沈もうとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!