第一章

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 教科書を取ろうと,ロッカーの前に屈む。すると,ぽんっと肩を叩かれた。 驚いて振り返ると、馴染みのある顔がそこにあった。を  「美波…」 「紗奈元気?」 穏やかな笑みで私を見つめる浅野美波(あさのみなみ)は、学校で唯一の友達である。 美波は小学校時代からの付き合いで、言わゆる幼馴染み。 とはいえ、この子もまた私とは違う世界の子だ。 艶やかで真っ直ぐに伸びている髪、華奢で綺麗な長い手足に、小さな顔にクリっとした目元がとても印象的だ。 「どうしたの?」 「漫画貸してほしいなって。」 「あぁ、あれすごく良かったよね!!」 「うんうん!続き気になっちゃってね。 ヒロインへの愛があるのに、鈍感なんだか焦れったくて、ドキドキしちゃった!!最後のシーンが特に…」 ただでさえ目が大きいのに、それをさらに開いて興奮した様子で喋り始める彼女。 いきなり漫画やアニメに関して語り出すのは、昔から良くあることだが久しぶりに聞いたら、新鮮に感じてしまった。 美波は、無類の2次元オタクで現実に興味がない。 しかし立ち回りのできる彼女は、バレないようにそのことを周りには極力話さない。 好きなものを好きと言って、引かれてしまったり、馬鹿にされたりするのが嫌なのかもしれない。 「今日は、持ってきてないから明日渡すよ。」 「ありがとう!!」 嬉しそうにそう言って微笑むと、美波は周りをキョロキョロと見渡し始めた。
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