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突然,背後から声をかけられ振り向くと,予想通りの人物が立っていた。
「こ,小日向くん!どうしたの?」
「あのさ、今日の放課後一緒に…」
笑顔でこちらに近づいて,話しかけてくる彼を,美波は不思議そうにじっと見つめる。
動揺が隠しきれない私は,目だけを動かし,双方を見る。こんな奇妙な組み合わせを,美波は一体どう思うだろうか。
一方,小日向くんは,気にする様子もなく語りかけてくる。私は,震える唇を噛んだ。
「宮園さん聞いてる?って,もしかしてこの子と話してる途中だった?」
呑気な小日向くんは,今気づいたのかと突っ込みたくなるほどの一言を言うと,美波を指さす。
美波は,少し眉を寄せて不思議そうに小日向くんに目をやる。そうして,この人誰と訴えかけるように私を見た。
今すぐにでも,この状況から抜け出したい私は,早くチャイムがならないかと廊下越しから教室の時計を見る。しかし、私の願いは届かず,次の授業まで五.六分程時間がある。
「えっと,うん。この子と話してたよ。」
「そっか。急に声かけてごめん。」
「ううん,大丈夫だよ。あっ,美波,この人は,私のクラスメイトでね…」
「初めまして。俺,宮園さんの友達の小日向翔です。」
「そう。小日向くん…ん?」
私は,違和感を覚え,彼を見る。目が合うと,彼は爽やかな笑顔を私に向ける。そんな彼から,反射的に視線を逸らす。
一体,この違和感は何だろうか。気になって仕方がない私は,さっきの会話を振り返る。
彼のことをクラスメイトと紹介したら,彼から名乗ってくれた。
私の友達だと言って自己紹介した。
私の友達だ…と。
私の友達…。
私の…友達?
「とも,だち?」
「どうしたの宮園さん?」
「今,私の友達って…」
「友達だよ,俺たち。」
にっこりとこちらを見て,微笑む彼。
私は心の中で,頭を大きく抱えた。
一体全体,何を言っているのだと。
そうして思うのだ,罪な男ってこういうことを言うのだと。
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